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COLUMN

経営者必見|最低賃金1,500円と社会保険拡大で人件費はこう変わる!生き残るための4つの準備

迫る“二重の波”

2020年代後半、日本の企業経営はこれまでにない規模の環境変化に直面します。
その波は二重になって押し寄せます。

第一の波は、最低賃金の大幅引き上げです。
政府は2020年代中に全国加重平均で時給1,500円の実現を掲げ、2025年度の全国加重平均(1,118円[2025年8月4日時点目安])から、わずか4年でこの水準まで引き上げる方針を示しています。達成するためには年平均約7.6%という過去にも例を見ない上昇率が必要です。

第二の波は、社会保険と雇用保険の適用拡大です。
これまで適用外だった短時間労働者や小規模事業所も、段階的に加入義務が広がります。特に2027年10月からは社会保険の勤め先企業規模要件の適用拡大が開始され週20時間以上働く短時間労働者が順次対象となり、2028年10月からは雇用保険の適用対象が週20時間以上から週10時間以上に引き下げられます。

この二つの動きはそれぞれでも企業経営に大きな影響を与えますが、同時期に進行することが最大のポイントです。
人件費の増加と保険料負担の拡大が重なり、経営の余力を圧迫する「ダブルインパクト」が避けられません。

年表で見る「ダブルインパクト」の全貌

以下の年表は、最低賃金引き上げと制度改正の流れを重ねたものです。
両者が同時進行する様子が一目で分かります。

年月最低賃金(加重平均)制度改正
2025年10月1,118円[2025年8月4日時点目安]
2026年10月1,203円[対前年+7.6%]
2027年10月1,295円[対前年+7.6%]社会保険:従業員36〜50人規模に拡大
2028年10月1,393円[対前年+7.6%]雇用保険:週10時間以上に拡大
2029年10月1,500円[対前年+7.7%]社会保険:従業員21〜35人規模に拡大+個人事業所も対象
2032年10月社会保険:従業員11〜20人規模に拡大
2035年10月社会保険:従業員1〜10人規模に拡大

※従業員数は社会保険の被保険者数によってカウントします。

人件費への影響試算

最低賃金の上昇は、直接的に人件費を押し上げます。さらに社会保険・雇用保険の適用拡大で、対象者には保険料負担も加わります。

◆正社員:所定労働時間月170時間:東京(社会保険料率14.9%)/(事業主雇用保険料率0.9%)

最低賃金
(加重平均)
社会保険料(東京)
(賃金×保険料率)
雇用保険料
(賃金×保険料率)
会社負担合計
2025190,060円28,319円1,711円220,090円
2029

255,000円

37,995円2,295円295,290円
月額+64,940円+9,676円+584円+75,200円
年額+779,280円+116,112円+7,008円+902,400円

◆パートタイマー等:所定労働時間月86時間≠週20時間:東京(社会保険料率14.9%)/(事業主雇用保険料率0.9%):企業規模21人~50人規模

最低賃金
(加重平均)
社会保険料(東京)
(賃金×保険料率)
雇用保険料
(賃金×保険料率)
会社負担合計
202596,148円866円97,014円
2029

129,000円

19,221円1,161円149,382円
月額+32,852円+19,221円+295円+52,368円
年額+394,224円+230,652円+3,540円+628,416円

「ダブルインパクト」が企業にもたらす現実

1. 短時間層のコスト急増

2028年10月から雇用保険の週10時間以上適用が始まると、これまで保険料負担がなかった層にもコストが発生します。
加えて、社会保険の企業規模要件撤廃が進むため、短時間労働者の社会保険加入も避けられません。

2. シフト・雇用形態戦略の限界

従来は「週20時間未満に抑える」という方法で保険加入を回避できましたが、週10時間基準になると調整の余地はさらに狭まります。

3. 採用・定着戦略の二極化

制度対応を早期に進め、福利厚生を整えた企業は、採用市場で優位になります。一方で準備が遅れる企業は採用難に直面します。

今からできる4つの実務対応

(1) 影響の「見える化」

従業員ごとに勤務時間・雇用形態・保険適用可否を整理。

最低賃金引き上げ+制度改正後の年間負担増を試算。

年次ごとの人件費計画を策定。

(2) 人員・シフトの再構築

少数精鋭化と業務効率化を同時に推進。

生産性の低い業務の縮小または外部化。

高生産性人材への集中投資。

(3) 制度の積極活用

社会保険加入初期の負担軽減措置や助成金を活用。

業務改善助成金、生産性向上支援策と組み合わせてコスト圧縮。

(4) 価格・サービス戦略の見直し

コスト上昇分を吸収する価格設定の検討。

高付加価値サービスの開発で単価アップを図る。

まとめ:早く動く企業ほど有利になる

最低賃金1,500円時代と社会保険・雇用保険の適用拡大は、企業にとって避けられない現実です。
しかし、これは同時に競争力強化の機会でもあります。
早期に影響を見える化し、制度対応と経営戦略をリンクさせることで、ダブルインパクトを「追い風」に変えることができます。

制度や法律の知識だけでなく、私たちは経営課題を理解し、解決策を共に考えることができます。

単なる制度対応ではなく、

人件費増に耐えうる経営体質づくり

成長戦略とリンクした人事・労務計画

採用・定着を強化する制度設計

を、現場と数字の両面からサポートいたします。

社労士は、こうした見える化から制度活用、計画策定まで、伴走支援が可能です。
2029年を笑顔で迎えるために——今、この瞬間から準備を始めましょう。
ぜひ、お気軽にご相談ください。

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