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傷病手当金と労災の「待期期間」はどう違う?数え方や注意点を社労士が解説

従業員が病気やケガで仕事を休む際には、公的制度である健康保険の「傷病手当金」や労災保険の「休業(補償)等給付」が支給される場合があります。どちらの制度も、支給開始前の「待期期間」という3日間の休業期間が必要ですが、その数え方や取り扱いは制度ごとに異なるため、実務では混乱しやすいポイントです。

この記事では、傷病手当金と労災における待期期間の違いについて、社労士がわかりやすく解説します。

  • それぞれの待期期間の考え方と注意点
  • 待期期間の違いを比較
  • よくある質問

各制度の待期期間を整理しておきたい労務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

傷病手当金と労災とは|制度の基本

従業員が病気やけがによって働けなくなった場合、その原因によって利用できる制度が異なります。

業務外の病気やけがで働けなくなった場合には、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
支給されるためには、次の4つの条件を満たす必要があります。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

一方、業務上の事故や作業が原因、または通勤中の負傷・疾病の場合には、労災保険の「休業(補償)等給付」が適用されます。
支給されるための条件は次の3つです。

  • 業務災害または通勤災害による療養が必要であること
  • 療養のため労務に服することができないこと
  • 休業期間に賃金を受けていないこと

傷病手当金と休業(補償)等給付は、いずれも休業した日からすぐに支給されるわけではありません。
どちらの制度にも、最初の3日間は給付の対象外となる「待期期間」という考え方があります。

次章では、各制度の待期期間の数え方・考え方の違いについて詳しく解説します。

健康保険の「傷病手当金」における待期期間

ここでは、傷病手当金における待期期間について確認していきましょう。

待期期間の数え方

傷病手当金では、「連続した3日間」仕事に就けなかった日を待期期間とし、4日目以降の休業日から支給対象となります。

休業日には、土日・祝日などの公休日や、有給休暇で休んだ日も含まれます。
たとえば、次のようなケースは待期が成立します。

一方で、途中で出勤があると「連続」が途切れるため、待期は成立しません。

このように、休業の種類は問わず「連続して3日間休むこと」が待期成立のポイントです。

待期期間中の給与支払いと取扱い

待期期間中に給与の支払いがあったとしても、待期期間の成立には影響しません。
あくまで「連続した3日間、労務に就けなかった日があるかどうか」で判断されるためです。

たとえば、待期期間の3日間に有給休暇を使用した場合でも、実際には病気やけがにより働けない状態であることに変わりがなければ、その3日間は待期期間としてカウントされます。

また、有給休暇以外にも、会社の規定で休業手当が支給された日であっても、本人が労務不能の状態で休んでいれば、待期期間に含まれます。

ただし、傷病手当金が支給されるのは「待期期間が完成したうえで、実際に給与の支払いがない日」です。

待期期間中の給与支払いは問題ありませんが、待期期間が終わった後に給与が支払われている日は、原則として傷病手当金の対象外となる点に注意が必要です。

なお、出勤していない日に対して傷病手当金の額より少ない給与が支払われているときは、その差額が支給されます。

待期期間の起算日に関する注意点

待期期間は、「労務に就けなかった日」が生じた日からカウントします。
欠勤日だけでなく、その日の就業時間中で労務不能状態となり早退した場合も、原則として待期の初日として扱われます。

ただし、就業時間後に労務不能状態となった場合は、その翌日から起算します。

また、土日や祝日などの公休日でも、医師の見解が「労務不能となった日」であれば、その日を待期の1日目としてカウントします。

労災保険の「休業(補償)等給付」における待期期間

次に、休業(補償)等給付における待期期間について確認していきましょう。

待期期間の数え方

労災保険の休業(補償)等給付では、「労務に就けなかった日」を通算して3日間確保することで待期が成立し、4日目以降の休業分について給付が支給されます。

つまり、傷病手当金のように連続3日間である必要はないということです。
たとえば、次のようなケースは待期が成立します。

また、「労務に就けず休んだ日」には、土日・祝日などの所定休日も含まれるため、休日も待期の1日としてカウントします。

待期期間中の給与支払いと取扱い

休業(補償)等給付の待期期間は、労災保険から給付は行われません。

そのため、業務災害を原因として働けなくなった場合は、労働基準法76条により、会社が平均賃金の60%以上の休業補償を支払う必要があります。
ただし、労働者が有給休暇を希望した場合は、有給休暇により休業補償がされたとみなされます。

一方で、通勤災害の場合は労働基準法上の休業補償の対象にはならないため、会社に支払い義務はありません。

まとめると、次のようになります。

業務災害:待期期間の3日間は会社が平均賃金の60%以上を補償

通勤災害:待期期間の3日間は休業補償の対象外

待期期間の起算日に関する注意点

待期期間の考え方は、傷病手当金の場合と同様「労務に就けなかった日」からカウントします。
たとえば、就業中に体調不良や負傷で早退した場合は、その日も待期の1日として扱われます。

一方で、就業時間後に災害が発生し、その日は通常どおり勤務していた場合には、翌日から待期が始まります。

また、土日・祝日などの所定休日であっても、実際に労務に就くことができない状態が続いている場合は待期に含まれます。

【比較表】傷病手当金と労災ではこう違う!

前章で解説したとおり、同じ「仕事ができない状態」を補償する制度でも、3日間の待期期間の考え方には違いがあります。

とくに「連続」か「通算」かは、実務でよく混乱が生じるポイントです。
次の比較表で整理しておきましょう。

 傷病手当金休業(補償)等給付
適用される保険健康保険労災保険
対象となるケガ・病気私傷病(業務外)業務災害・通勤災害
待期期間の考え方労務に就けなかった日が連続して3日間労務に就けなかった日が通算して3日間
待期期間における会社の義務定められていない平均賃金の60%以上の休業補償を支払う(業務災害の場合)
起算日の考え方労務不能となった日から数える
早退した日も含まれる
同左
4日目以降の取り扱い健康保険から月給の2/3程度の給付労災保険から「休業(補償)等給付〔60%〕」+「特別支給金〔20%〕」の給付

よくある質問

双方の制度の違いから混同しやすい待期期間ですが、実務上「この場合はどう扱えばいいのか?」と迷いやすい場面が多くあります。

ここでは、実務でよく寄せられる疑問をQ&A形式で整理して解説していきます。

待期期間も医師の診断書は発行してもらうべき?

傷病手当金も休業(補償)等給付も、請求書自体に「医師の証明欄」があり、病院側が傷病名や労務不能と判断される期間を記入します。
そのため、原則として別途診断書を添付する必要はありません。

ただし、就業規則や休職に関する社内ルールで「休業する際は診断書を提出すること」と定めている場合は、待期期間にあたる日も含めて診断書を求める運用が可能です。

とくに「医師の判断を持って働けない状態だったか」を確認しておきたい場合、待期期間も含めて診断書を提出してもらうことで、後々のトラブル防止にもつながります。

▼診断書の社内ルールについてはこちら

【社労士が解説】休職制度とは?基準から復職・休職期間満了時の対応について

復職後に再び休業した場合、待期はもう一度必要?

傷病手当金も休業(補償)等給付も、同一傷病であるかぎり、待期期間は原則として1回限りとされています。
たとえば、業務中のケガで休業し、一度復職した後に、同じ部位の治療のため再び休むケースでも同様です。

初回の休業で待期期間が成立していれば、再び休業した分は初日から給付の対象となります。
ただし、同一傷病では双方とも給付上限があるため、期間内に限られます。

傷病手当金:通算1年6ヶ月まで受給可能

休業(補償)等給付:1年6か月経過後は傷病(補償)等年金に移行する場合あり

退職の前日に業務災害が発生した場合の補償はどうなる?

待期期間にあたる最初の3日間について会社が支払う休業補償(平均賃金の60%以上)は、労働基準法第83条により退職であっても免除されず、補償義務は発生します。

また、業務災害により働けない状態になり、待期期間中に退職日をむかえた場合でも、休業(補償)等給付は継続して受けられます。
これは、労災保険法12条の5により、労働者が退職しても給付を受ける権利は失われないとされているためです。

まとめ

傷病手当金と休業(補償)等給付は、従業員の「働けない期間の生活を支える制度」ですが、待期期間の数え方や3日間の休業補償など、細かなルールには違いがあります。

また、平均賃金の計算や休業に至った経緯などによって、個別の判断が求められるケースも少なくありません。

判断に迷いや不安がある場合は早めに社労士へ相談し、正確な手続きにつなげていきましょう。

傷病手当金や労災の判断に迷う場合は社労士へお任せください

あかつき社会保険労務士法人は、傷病手当金や休業(補償)等給付の申請手続き、社内ルールの整備、従業員との対応方針の検討まで、一連の流れをトータルでサポートしております。
状況に応じて、健康保険と労災のどちらが適用されるか、実務上の判断や必要書類の整理方法をご提案いたします。

次のお悩みに1つでもチェックが入りましたら、お気軽にご相談ください。
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