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2026年以降に予定されている労働基準法の改正は、労働時間や休日の考え方を中心に、企業実務へ大きな影響が想定されています。とくに、勤怠・休日の区分が曖昧なままだと、割増賃金の計算ミスや是正対応につながる可能性があります。
この記事では、現在公表されている改正案をもとに、労務担当者が押さえておきたい改正の概要と、実務上の扱いが変わるポイントを社労士がわかりやすく解説します。
改正内容と今後の対応を理解しておきたい労務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
Point💡 ・管理職・従業員への周知や運用ルールの早期整備が必要 ・専門的な内容のため、労務の専門家である社労士の視点が求められる |
労働基準法は1947年の制定以来労働条件の最低基準を定めてきましたが、当時はフルタイム勤務を前提とした働き方が主流でした。その後、テレワークの普及や副業・兼業の拡大などにより、労働時間や働く場所の管理が複雑になっています。
このような変化により、従来の制度では長時間労働や連続勤務を十分に防ぎきれない場面も増えており、実務上の運用と法制度とのズレが課題となっていました。
今回の改正案は、労働者の健康を確保する「守る」視点と、多様な希望を「支える」視点を両立させることを目的としています。労務担当者にとっては、制度の理解とともに、現場に合うルールの在り方を見直す必要があるといえるでしょう。

2025年1月に公開された労働基準関係法研究会報告書によると、労働基準法の見直しにより、企業の実務に大きな影響を及ぼすと考えられるポイントが8つあります。
ここでは、労務担当者が事前に押さえておくべき8つの内容をそれぞれ解説します。
| 現行 | 4週4休制を活用することで、理論上は最大48日間の連続勤務が可能。休日なしの連勤が精神障害の労災認定につながる可能性がある。 |
| 改正案 | 健康確保の観点から「14日以上の連続勤務をさせてはならない」という上限規制を法律で設けることが検討されている。 |
現行では、法定休日は「毎週1日」が原則とされています(または4週間で4日以上の付与)。この4週4休制を採用し、休日の配置を偏らせた場合、理論上は最大48日間の連続勤務が生じうる仕組みです。
なお、36協定により法定休日労働を行う場合でも、法定休日を付与する義務自体は残るため、振替等の運用を含めた休日管理が重要になります。
一方で、労災保険の認定基準では「2週間以上の休日なし連勤」は強い心理的負荷とされ、実際に精神障害として労災認定される事例も発生しています。
こうした実態を踏まえ、改正案では連続勤務そのものに明確な上限を設け、企業に健康配慮をより強く求める方向で議論が進められています。
【改正対応が必要な企業】
・繁忙期に休日を後ろ倒しにまとめている
・シフト制により連続勤務が恒常化している
→勤務管理やシフト設計の見直しが必要
| 現行 | 法定休日を特定する義務がなく、1週のうち法定休日と所定休日が混在している。 |
| 改正案 | 法定休日を事前に特定する義務が検討されている。 |
現行では、法定休日について「毎週1日」の付与が必須ですが、「どの日を法定休日とするか」の就業規則の明記は義務付けられていません。
そのため、土日休みの週休2日制であっても法定休日が特定されていない場合、どちらの休日にどの割増率を適用すべきかが不明確なまま運用されているケースが見られます。
| ・休日労働割増賃金(35%以上)が発生する「法定休日」 ・時間外労働割増賃金(25%以上)が発生する「所定休日」 |
特に大きな影響を受けるのは、飲食業・小売業などのシフト制勤務を導入している業種です。
曜日を固定せず週ごとに2日の休日を割り当てる運用では、急なシフト変更や休日出勤が発生した際に、その日が「法定休日労働」か「時間外労働」かの判断が難しくなります。
実務上は就業規則で会社共通の法定休日を定めるほか、個人ごとに雇用契約書等で法定休日を定める方法もあります。ただし、個人ごとに定める場合は管理が煩雑になりやすくなるため、休日区分を整理したルールづくりが欠かせません。
【改正対応が必要な企業】
・週休2日制だが、法定休日を明示せず運用している
・シフト制で週ごとに休日が変わり、法定休日が固定されていない
→就業規則や雇用契約書により「法定休日の明確化」が必要
| 現行 | 勤務間インターバルの確保は、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法で努力義務とされているが、具体的な時間数や対象者は定められていない。 |
| 改正案 | 原則として11時間の休息時間の確保を目指し、義務化に向けて検討されている。 |
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了時刻から翌日の勤務開始時刻までに、一定時間以上の「休息時間」を確保する仕組みです。
長時間労働や深夜業務が続いた場合でも、十分な休息を確保し、心身の健康を守ることを目的としています。現行の制度では努力義務のため、2023年時点での導入企業割合は6.0%にとどまっており、多くの企業では制度自体の検討が進んでいません。
一方で、欧州諸国では「勤務終了から次の勤務開始までに一定時間を空ける」ことが法的に義務づけられており、日単位での休息確保が重視されています。
そのため、次のような内容を前提に、義務化を視野に入れた制度の強化が検討されています。
| ・原則11時間の勤務間インターバルを確保 ・確保できなかった場合の代替措置 ・職種や業務の特性に応じた適用除外や経過措置 |
【改正対応が必要な企業】
・深夜業務や早朝勤務が連続しやすい
・シフト制で終業時刻と始業時刻の間隔が短い日がある
・繁忙期に連日の残業や長時間勤務が発生している
→勤務間インターバル制度の導入
| 現行 | 勤務時間外であっても業務連絡への対応を求められるケースが多く、私生活と業務の境界が曖昧になっている。 |
| 改正案 | 「つながらない権利」の考え方を踏まえ、勤務時間外の連絡についてのガイドライン策定等が議論されている。 |
本来、使用者が労働者の私生活に介入する権限はありません。しかし、顧客対応や突発的なトラブル対応などを理由に、勤務時間外でも電話・メール・チャット等への対応が必要な場合が多く生じています。
フランスでは、勤務時間外や休日に仕事上の連絡を拒否できる「つながらない権利」が定められており、勤務時間外にどこまで連絡を許容するかを労使で定める仕組みが整えられています。
このような仕組みから、「緊急対応として許容する連絡の範囲」や「対応した場合の労働時間・手当の取扱い」などを整理する必要があると考えられています。
【改正対応が必要な企業】
・勤務時間外の連絡について明確な社内ルールがない
・上司や顧客など勤務時間外の対応が当たり前になっている
→従業員の勤務時間外対応への配慮と許容される範囲の整理
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| 現行 | 年次有給休暇中の賃金は、いずれかの方法から計算する。 ①平均賃金 ②通常の賃金 ③標準報酬日額相当額 |
| 改正案 | ②通常の賃金 を原則の計算方法とすることを検討されている。 |
現行では、就業規則で定めることにより、年次有給休暇中の賃金を次の3つの方法のいずれかで計算し支払うこととされています。
| ①「直近3ヵ月間の賃金総額÷3ヵ月の総日数」の平均賃金 ②所定労働時間に支払われる通常の賃金 ③健康保険上の標準報酬日額相当額 |
月給制の労働者については、実務上「②通常の賃金」を用い、月給から減算しない運用が一般的です。
一方、日給制・時給制の労働者は、①平均賃金や③標準報酬日額相当額で計算すると、有給を取得した日の賃金が通常の労働日よりも低くなるケースが生じています。
【計算例】
時給1,200円・1日6時間(通常日額7,200円)・週4日勤務の場合
| 算定方法 | 有休1日分の金額(目安) |
| ① 平均賃金 (直近3ヵ月間の賃金総額÷3ヵ月の総日数) | 3,840円※ (345,600円÷90日) |
| ② 通常の賃金 (時給×労働時間) | 7,200円 (1,200円×6時間) |
| ③ 健康保険上の標準報酬日額相当額 (標準報酬月額÷30日) | 3,933円 (118,000円÷30日) |
このように、①平均賃金や③標準報酬日額相当額は、通常の賃金より大きく下回るため、日給制・時給制の労働者が不利益とならないように、有給休暇の計算を②通常の賃金へ統一する方向です。
【改正対応が必要な企業】
・日給制・時給制の有休を①平均賃金や③標準報酬日額相当額で計算している
→有給休暇の賃金計算ルールの見直し
| 現行 | 原則として、事業主が異なる場合でも労働時間を通算し、割増賃金を計算する必要がある。 |
| 改正案 | 健康確保のための「労働時間の通算」は維持しつつ、割増賃金の支払いについては通算を不要とする方向で検討されている。 |
現行では、労働者が副業・兼業を行う場合、本業先と副業先が異なる事業主であっても、労働時間を通算して割増賃金を計算するよう定められています。
そのため実務上は、労働時間の把握や、所定外労働の発生順に応じて割増賃金を計算するなど、非常に煩雑な管理となっています。
現在の運用は、企業が副業・兼業を許可しづらくなる要因となるほか、労働者が申告を控えたり、副業・兼業そのものを諦めたりする一因になっているとの指摘があります。
また、副業・兼業は使用者の命令ではなく労働者の自発的な選択であることから、割増賃金の支払いは事業場ごとに完結させる考え方が妥当ではないかと、制度見直しが検討されています。
【改正対応が必要な企業】
副業・兼業を認めている、または今後許可を検討している
→割増賃金は不要・労働時間の把握は必要なので、給与システム等の見直し有無を確認
| 現行 | 常時10人未満の小売業・サービス業など一部の事業場では、法定労働時間を週44時間とする特例措置が認められている。 |
| 改正案 | 対象事業場の約87%がすでに特例を利用していない実態を踏まえ、特例措置は役割を終えたものとして廃止に向けた検討が進められている。 |
現行制度では、小規模な小売業・サービス業等に限り、「1日8時間・週40時間」ではなく、例外的に週44時間までの労働が認められています。
しかし実態調査では、対象事業場の大半がすでに週40時間制を採用しており、特例を活用している企業は少数にとどまっています。
このため改正案では、制度本来の役割は概ね果たされたとみなされ、原則である週40時間制へ一本化する方向での見直しが検討されています。
【改正対応が必要な企業】
・常時10人未満で、現在も週44時間制を前提にシフトや労働時間を設計している
・特例を前提とした就業規則・労働条件通知書の記載が残っている
→労働時間制度の見直し
| 現行 | 過半数代表者の定義や選出方法は法律上明確になっていない。 |
| 改正案 | 労働基準法上に「過半数代表者」を明確に位置づけ、公正な選出手続や情報提供、不利益取扱いの禁止などを規定する方向で検討されている。 |
現行制度では、36協定の締結などで過半数代表者が必要とされる一方、その選出方法や役割が法律上整理されていません。
そのため現状は、使用者が特定の従業員を指名する、代表者が内容を理解しないまま形式的に押印するなど、実質的な労使協議が行われていないケースが問題視されています。
立候補の意思確認や事業場内での周知、選挙や投票な選出の手続きなどを、法律上明確にし、さらに負担軽減の観点から代表者の複数人選出なども検討されています。
【改正対応が必要な企業】
・使用者が過半数代表者を指名・固定している
・過半数代表者の選出方法・任期を定めた社内規程がない
→選出手続きや社内ルールの見直し
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2026年以降の施行に向けて、企業は労働時間・休日・賃金制度などを段階的に見直していく必要があります。
ただし、制度の解釈や新しい運用方法には専門的な判断が求められ、自社の判断だけでは誤った対応につながるおそれもあります。
ここでは、企業が対応すべき5つのステップと、社労士など外部専門家のチェックが必要な理由を解説します。
【Step1】社内分析 はじめに自社の「労働時間・休日・賃金制度」が改正内容のどこに影響するのかを整理します。 具体的には、連続勤務や休日の付与状況、割増賃金の計算方法、テレワーク・副業を含む実際の運用が、改正後のルールに適合しているかを確認します。 とくに、これまで問題なく運用してきた制度ほど改正内容とのズレに気づきにくく、見落としが生じやすい点には注意が必要です。 |
【Step2】就業規則・雇用契約書の確認 社内分析で影響が想定された項目について、就業規則・雇用契約書・賃金規程の記載を見直す必要があるかを確認します。 とくに、労働時間の管理方法や休日の定義、副業・テレワークなど新しい働き方に関する規定について、改正内容を前提とした条文構成になっているか、実務対応とのズレや運用ルールの曖昧さが残っていないかがおさえておきたいポイントです。 |
【Step3】システムへの反映 改正内容に対応できるよう、勤怠管理・給与計算システムの設定や機能を確認します。 連続勤務や休日の判定、割増賃金の計算方法、副業・テレワーク時の労働時間管理など、制度変更を前提とした運用がシステム上で正しく反映できるかが主な確認ポイントです。 設定変更で対応できるのか、システム改修や入替が必要かも含め、早い段階で整理しておきましょう。 |
【Step4】社内への周知
改正内容や新たな運用ルールについて、適用開始前からイントラや社内のお知らせメールなどを通じて、全従業員へ周知しておきましょう。 とくに、労働時間の考え方や休日の扱い、管理職が判断を求められる場面については、運用開始後の混乱や判断ミスを防ぐためにも、事前の共有が重要になります。 |
【Step5】外部専門家と連携した点検体制
制度や運用を整えたあとも、法改正の趣旨や最新の解釈とずれていないかを、社労士などの外部専門家の視点で定期的に確認します。 法改正は一度対応すれば終わりではなく、運用の中ではじめて見えてくる課題や、社内だけでの判断が難しい場面に遭遇するケースも少なくありません。 第三者のチェックを取り入れることで、自社判断による見落としを防ぎ、是正が必要なポイントをタイムリーに修正できる体制を維持できます。 |
2026年施行予定の労働基準法の改正について、就業規則や勤怠管理、社内ルールにまで影響が及ぶ可能性があるため、早い段階から全体像を整理しておくことが重要です。
次の表から、自社で改正対応が必要かを確認しましょう。
| 改正ポイント | 影響を受けやすい業種 |
| ②法定休日の特定義務 ④勤務時間外の連絡に対する配慮義務 ⑥副業・兼業者の割増賃金ルールの見直し ⑧過半数代表者の選出手続の厳格化 | 全業種 |
| ①連続勤務の上限規制 ③終業から始業まで11時間の休息確保 | 交代勤務・シフト勤務が多い業種(製造業、医療・介護、警備、小売など) |
| ⑤有給休暇の賃金計算ルールの明確化 | 時給制・日給制の従業員が多い業種(飲食、物流、建設など) |
| ⑦週44時間の特例措置の廃止 | 特例措置を利用している業種(小売、理美容、病院など) |
あかつき社会保険労務士法人は、2026年以降の労働基準法改正を見据えた影響の整理から、就業規則・賃金規程の見直し、勤怠管理体制の整備などサポートしております。企業ごとの業種・勤務形態・運用実態を踏まえ、「形式的な対応」に終わらない、実務に沿った改正対応のプランをご提案いたします。
次のお悩みに1つでもチェックが入りましたら、お気軽にご相談ください。
自社がどの改正項目の影響を受けるのか、整理しきれていない
就業規則や勤怠管理の見直しが必要だと感じているが、正しい書き方が分からない
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