COLUMN
前回、退職金制度にはいくつかの種類があることをお伝えしました。では、どのように「自社にあった退職金制度」を選べばよいでしょうか。今回は、経営者が気になっている下記3つのポイントと、4つの退職金制度「社内準備型」「退職金共済制度」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」を比較していきたいと思います。
積立先 | 運用責任者 | 事務責任者 | |
社内準備型 | 企業 | 企業 | 企業 |
退職金共済制度 | 共済団体 | 共済団体 | 共済団体 |
確定給付企業年金 | 企業年金基金 生命保険会社 信託会社 | 企業年金基金 生命保険会社 信託会社 | 企業 企業年金基金 |
企業型確定拠出年金 | 資産管理機関 | 加入者 | 企業 事務取次会社 |
「社内準備型」は企業が全ての責任を負います。「確定給付企業年金」は企業年金基金を設立する場合もあることから、実態は「社内準備型」に近いでしょう。ただし、キャッシュバランスプランを採用すれば、予定利率が市場環境に連動する指標を使うことになるため、運用環境が悪化しても積み立て不足が生じにくくなり、リスクは軽減されます。
一方、「退職金共済制度」「企業型確定拠出年金」は上記項目において、企業が責任を負うものはほとんどありません。比較的、制度導入においての障壁要因は少ないと言えます。
退職金債務 | 損金算入 | 社会保険料 | |
社内準備型 | 負う | 積立時は不可能 支払時は可能 | - |
退職金共済制度 | 条件次第 | 可能 | - |
確定給付企業年金 | 負う | 可能 | 対象外 |
企業型確定拠出年金 | 負わない | 可能 | 対象外 |
退職金債務となるかならないかで大きな影響が出るのは、企業価値です。故に、上場を目指している場合には、この債務が企業価値に響く可能性があるため、退職給付会計上、債務を負わない制度が好ましいと言えるでしょう。
「社内準備型」は、退職者がいつ出るかを考えて計画し、内部留保しておくことになり債務を負います。さらに、その資金の積立時は損金算入できず、税制面でもメリットがほとんどありません。会計面で良いところを無理やり探すなら、退職金の準備資金を短期的な資金繰りとして流用できないこともない、ということでしょうか。
「退職金共済制度」は、少し注意が必要かもしれません。運用結果のみが退職金になることが規定されている「外枠設計」の場合は、債務を負いません。しかし、退職金の給付額が約束されており、その一部を賄うことが規定されている「内枠設計」の場合は、運用結果の差額について債務を負います。
「確定給付企業年金」と「企業型確定拠出年金」については、「選択制」と呼ばれる設計が可能です。この設計の場合、掛金は社会保険料の対象外のため、法定福利費が軽減される可能性があります。
また、「確定給付企業年金」は債務を負いますが、「企業型確定拠出年金」は債務を負いません。このことから、会計・税務上のメリットが多いのは「企業型確定拠出年金」と言えます。
自己都合退職者の給付制限 | 懲戒解雇等による減額 | 評価による給付差 | |
社内準備型 | 可能 | 可能 | 可能 |
退職金共済制度 | 勤続1年未満の場合、不支給 | 申し立てが可能 (ただし掛金の回収はできない) | 勤続年数・賃金に応じた掛金のみ |
確定給付企業年金 | 可能 | 可能 | 可能 |
企業型確定拠出年金 | 「上乗せ支給」について、勤続3年未満の場合、掛金相当の返還が可能 | 不可能 | 可能 |
経営者の多くは、自己都合退職者や懲戒解雇、勤続年数が短い従業員に退職金を支払うことは抵抗感があるようです。この点から見ると「社内準備型」と「確定給付企業年金」は、給付制限や減額等が可能です。ただし、退職金規程や企業年金規約に定めがあり、労使の合意があることが条件となります。
対して、「退職金共済制度」と「企業型確定拠出年金」は限定的なものになります。中退共被共済者の懲戒解雇等の場合は、減額の申し立てをすることは可能ですが、決定は中退共と厚生労働省が行うため、企業に決定権はなく、掛金を回収することもできません。「企業型確定拠出年金」加入者の懲戒解雇等の場合でも、個人資産扱いとされるため減額することはできません。
評価による給付差について、「社内準備型」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」は柔軟な設計が可能なため、経営者の「頑張った従業員を労ってあげたい」という想いを叶えやすいものとなるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
どれも一長一短で選ぶのが難しいという場合は、制度を組み合わせるという選択肢もあります。
社内準備型 + 企業型確定拠出年金 | 退職金共済制度 + 企業型確定拠出年金 | 確定給付企業年金 + 企業型確定拠出年金 |
それぞれの制度のメリットを生かし、デメリットをカバーする制度設計になる可能性もあります。
既存の退職金制度を見直す際に、他の制度との組み合わせも是非検討いただければと思います。