COLUMN
昨今では、子育て支援や女性の活躍推進、若者の採用・育成に力を入れる企業が、社会的に高く評価されるようになってきました。
そうした時代の流れの中で、厚生労働省が認定する「くるみん」「えるぼし」「ユースエール」といった制度に注目が集まっています。
この記事では、くるみん・えるぼし・ユースエールについて、社労士がわかりやすく解説します。
認定制度の違いを整理したい方や、取得を検討している企業のご担当者は、ぜひ参考にしてください。
くるみん・えるぼし・ユースエールは、いずれも厚生労働省が認定する制度ですが、それぞれ法律や評価のポイントが異なります。
ここでは、3つの制度の特徴や目的の違いを詳しく見ていきましょう。
くるみん認定は、次世代育成支援対策推進法にもとづき、仕事と子育ての両立支援に取り組む企業を厚生労働大臣が認定する制度です。2007年からスタートした歴史ある制度で、えるぼしやユースエールよりも早く導入されています。
この制度は、子育て支援に力を入れる企業を「子育てサポート企業」として認定し、働きやすい職場づくりの推進を目的としています。認定を受けた企業は「くるみんマーク」を使用できるようになり、子育て支援に力を入れていることを社会に広く発信できる点が魅力です。
2025年5月時点で、5,000社を超える企業がくるみん認定を取得しています。
子育て世代の採用・定着を目指す企業にとって、取得する価値は十分にあるでしょう。
参考:厚生労働省「くるみん認定、プラチナくるみん認定及びトライくるみん認定企業名都道府県別一覧」
えるぼし認定は、女性活躍推進法にもとづき、職場における「女性の活躍」が優れている企業を厚生労働大臣が認定する制度です。2016年4月に女性活躍推進法が施行されたのと同時にスタートしました。
この法律は、女性が個性や能力を十分に発揮し、社会で活躍できる環境づくりを目的としています。えるぼし認定も、その一環として企業の取り組みを評価し、ワークライフバランスの充実や女性の社会進出を後押しする狙いがあります。
2025年5月時点で、3,500社を超える企業がえるぼし認定を取得しています。
女性が働きやすい環境を整えている証として、採用活動や企業イメージの向上にも役立つでしょう。
参考:厚生労働省「女性活躍推進法に係る認定状況」
ユースエール認定は、若者雇用促進法に基づき、若者の採用や育成に積極的な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。2015年10月に若者雇用促進法が施行され、同年からスタートしました。
「ユースエール」という名前は、若者(ユース)を応援する(エール)という意味が込められています。
認定を受けることで、若年層が働きやすい環境を整えている企業であることをアピールできるので、採用活動の強化や企業イメージの向上にもつながります。
認定企業は増加傾向にあり、執筆時点で1,500社を超える企業がユースエール認定を取得しています。
若手人材の確保を重視する中小企業にとって注目すべき制度と言えるでしょう。
参考:若者雇用促進総合サイト「ユースエール認定企業一覧」
くるみん・えるぼし・ユースエールは、それぞれの制度で力を入れている分野や求められる取り組みの内容が異なります。
ここでは、それぞれの認定基準や対象となる企業の特徴を解説します。
出典:厚生労働省「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」をもとに一部加工して作成
くるみん認定は、取り組みのレベルに応じて「くるみん」「プラチナくるみん」「トライくるみん」の3種類があります。
「くるみん」は、子育て・働き方改革に関して、一定の基準を満たした企業が対象です。
「プラチナくるみん」は、くるみん認定企業のうち、さらに高い基準をクリアし、より積極的な取り組みが評価された企業に与えられます。
2022年に新設された「トライくるみん」は、認定基準が一部緩和され、これから子育て支援を強化したい企業でも挑戦しやすい制度となっています。
それぞれの主な認定基準は、次のとおりです。
認定基準 | くるみん | プラチナくるみん | トライくるみん |
男性育休取得率 | 30%以上 | 50%以上 | 10%以上 |
女性育休取得率 | 75%以上 | ||
所定外労働 | 月平均30時間未満(全てのフルタイム労働者) | 月平均45時間未満 | |
取組内容 | ① 男性労働者の育児休業等の取得期間の延伸 |
参考:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法の改正に伴い、くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正されます」
このような認定基準を満たす企業が申請を行うと、認定を受けることができます。
企業規模は問われませんが、申請を行う前に「一般事業主行動計画」の策定・届出などが必要です。
出典:厚生労働省「えるぼし認定・プラチナえるぼし認定」をもとに一部加工して作成
えるぼし認定は、女性活躍推進法にもとづき、5つの評価項目をもとに企業の取り組み状況を評価します。
5つの評価項目は、次のとおりです。
評価項目 | 主な基準 |
1.採用 | 男女別の競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度 など |
2.継続就業 | 女性の平均勤続年数が男性の7割以上 など |
3.労働時間等の働き方 | 法定時間外・休日労働が各月ごとに45時間未満 |
4.管理職比率 | 管理職に占める女性割合が業種の平均以上 など |
5.多様なキャリアコース | 非正規から正規への転換などの実績 |
参考:厚生労働省「えるぼし認定・プラチナえるぼし認定」
これらの評価を満たした数に応じて1~3段階で認定されます。
認定段階 | 評価項目の達成数 | その他の要件 |
プラチナえるぼし | プラチナえるぼしの(*) | 一般事業主行動計画の取り組みを実施・定めた目標を達成すること 男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること 女性活躍推進法に基づく情報公表項目のうち、8項目以上の公表かつ実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表すること |
えるぼし3段階 | 5項目すべて | 実績を「女性の活躍推進企業データベース」に毎年公表すること |
えるぼし2段階 | 3〜4項目 | 同上 |
えるぼし1段階 | 1〜2項目 | 同上 |
(*)2.継続就業「女性の平均勤続年数が男性の8割以上」や4.管理職比率「管理職に占める女性割合が業種の平均の1.5倍以上」など、えるぼしよりさらに高い基準の達成が必要
えるぼしの1〜2段階で満たせなかった基準がある場合は、関連する基準を実施し、その実績が2年以上連続で改善していることが条件になります。
さらに、えるぼし認定企業のうち、一定の要件を満たすと「プラチナえるぼし」の認定も受けられます。
申請にあたっては、くるみん認定と同じく、企業規模を問わず「一般事業主行動計画」の策定・届出などが必要です。
ユースエール認定は、くるみん・えるぼし認定と異なり、常時雇用する労働者が300人以下の「中小企業」が対象です。
また、学校卒業後3年以内の求人や、若者の採用や人材育成に取り組んでいることが条件となります。
主な認定基準は、次のとおりです。
認定基準 | 内容 |
採用・育成方針 | 人材育成方針・教育訓練計画を策定していること |
若者の離職率 | 直近3事業年度で新卒等の離職率が20%以下 |
所定外時間 | 全事業年度の月平均所定外労働が20時間以下 |
有給取得率/取得日数 | 年間有給取得率が70%以上 |
育児休業取得人数/取得率 | 直近3事業年度で男性の取得者1人以上 |
参考:厚生労働省「若者の採用・育成に積極的な中小企業の皆さまへ」
そのほかにも、直近3事業年度の採用者数・離職者数の公表や、過去1年間の事業主都合の解雇を行なっていないなど、さまざまな要件があります。
くるみんやえるぼしとは異なり、「一般事業主行動計画」の策定・届出は不要なので、認定基準を満たせば申請書類を提出します。
くるみん・えるぼし・ユースエール認定は申請や準備に手間はかかるものの、それ以上に企業にもたらすメリットは大きいです。
ここでは、認定を受けることで得られる効果や、取得までの流れを解説します。
どの認定を取得しても、共通することとして「働きやすい企業」として国から認められるので、企業のイメージ向上や採用力強化につながります。
それぞれのメリットは、次のとおりです。
認定制度 | 主な対象・特徴 | 期待できる効果 |
くるみん | 子育て支援に積極的な企業 | 育児休業が取得しやすい企業として「ホワイト企業」認知され、社内の定着率も上がる |
えるぼし | 女性活躍の推進に取り組む企業 | 女性管理職登用や多様な働き方推進の実績を示し、採用・公共調達で優位に |
ユースエール | 若年層の採用・育成に注力する中小企業 | 求人活動の強化や若手人材の確保 |
さらに、中小企業が賃上げを行った際に適用される「賃上げ促進税制」では、くるみん・くるみんプラス・えるぼし(2段階目以上)の認定取得により、法人税の控除率が5%上乗せされる税制優遇もあります。
このほか、ユースエール認定企業には、認定企業限定の就職面接会への参加や低利融資など、中小企業の採用活動を支援する特典が設けられています。
くるみん・えるぼし認定を取得するには、事前に「一般事業主行動計画」の策定が必要です。これは、従業員の仕事と子育ての両立や労働環境の整備に向けた計画で、従業員101人以上の企業は策定・届出、公表・周知が義務付けられています。
なお、義務対象ではない100人以下の企業でも、認定を受けるには行動計画の策定・届出が必要です。
くるみん・えるぼし認定の流れは、次のとおりです。
① 自社の現状把握・課題分析 |
参考:厚生労働省「くるみん認定・プラチナくるみん認定取得までの流れ」「えるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内」
一般事業主行動計画や認定申請のフォーマットは、厚生労働省ホームページよりダウンロードすることができます。
ユースエール認定の流れは、次のとおりです。
① 若年層向けの求人準備・雇用情報の公表 |
参考:滋賀労働局「ユースエール認定企業になるまでの流れ」
認定申請のフォーマットは、厚生労働省ホームページよりダウンロードすることができます。
なお、申請時には、採用率や育児休業の取得率、労働時間の実績など、各認定で定められたデータの提出が求められます。日頃からデータを集計しておき、正確な情報提出を目指しましょう。
くるみん・えるぼし・ユースエール認定の特徴は分かっても、「自社にはどれが合うのか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、社労士の視点から、自社に合った認定制度の選び方を解説します。
いずれも企業イメージ向上にはつながりますが、自社の課題や人材戦略に応じて、目指すべき認定は異なります。
たとえば、
「30代の子育て世代を確保・定着させたい」→くるみん認定 「美容メーカーなので女性管理職を増やしたい」→えるぼし認定 「若手の採用・定着を強化したい」→ユースエール認定 |
など、どの層の人材が不足しているかを分析し、将来の組織づくりに役立つ認定を選択しましょう。
認定制度は、単なる企業イメージの向上だけでなく、企業の人材戦略に組み込むことで効果を発揮します。
たとえば、採用活動で認定をアピールすれば、企業の魅力が伝わり、応募者の関心や理解を深めることができます。また、在籍する社員にも「従業員を大切にし、どんな会社を目指しているのか」が伝わるため、安心して働き続けられる職場づくりにもつながります。
企業の方針や姿勢を内外に示す手段として、認定制度を上手に活用しましょう。
くるみん・えるぼし・ユースエールといった厚生労働省の認定制度は、いずれも企業の取り組みを「見える化」し、対外的な信頼獲得や採用力の強化に役立つものです。
ただし、各制度は基づく法律や対象、認定基準が異なります。まずは自社の課題や人材戦略を整理し、将来の組織づくりにどの制度が有効かを検討することがポイントです。
以下の早見表を参考に、貴社に合った認定を目指してみましょう。
制度名 | 対象分野 | 認定企業 | 認定の段階 |
くるみん | 子育て支援 | 5,000社以上 | トライくるみん/くるみん/プラチナくるみん |
えるぼし | 女性活躍推進 | 3,500社以上 | 1〜3段階/プラチナえるぼし |
ユースエール | 若手採用・育成 | 1,500社以上 | – |
認定取得がゴールではなく、制度を通じて労働環境を整備し、持続的な成長につなげることが最も重要です。
社労士などの専門家の助言も活用しながら、自社の強みを伸ばす手段の一つとしてご検討ください。
あかつき社会保険労務士法人は、くるみん・えるぼし・ユースエールの認定取得に向けた準備から申請まで、企業の状況に合わせた最適なサポートをご提供しています。
人事・労務の専門家が、貴社の人材戦略や組織づくりの視点からもアドバイスいたします。
まずはオンラインでヒアリングを行なっていますので、ぜひお気軽にご相談ください。