COLUMN
企業の健康経営への取り組みは、従業員の健康を守るだけでなく、働きやすい職場環境づくりや企業イメージの向上にも直結する時代になっています。
そうした流れの中で、経済産業省が推進する「健康経営優良法人」に注目が集まっています。
この記事では、健康経営優良法人について、社労士がわかりやすく解説します。
・制度概要
・認定されるメリット・デメリット
・認定の要件と申請手順
制度の特徴を整理したい方や、取得を検討している中小企業の労務担当者・経営層の方は、ぜひ参考にしてください。
健康経営優良法人とは、従業員の健康づくりに積極的に取り組む企業を日本健康会議が認定する制度です。
企業の取り組みを“見える化”することで、従業員や求職者、取引先、金融機関などから社会的評価や信頼を高めることを目的としています。
この制度は2016年に創設され、大企業だけでなく中小企業も対象となっている点が特徴です。
法人区分は「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分類され、業種ごとに従業員数や資本金の基準が定められています。
業種によっては、100人未満でも大規模法人部門に含まれるケースがあるため、自社がどちらの部門に該当するか正しく確認しておきましょう。
業種 | 大規模法人部門 | 中小規模法人部門(いずれかに該当) | |
従業員数 | 従業員数 | 資本金または出資金額 | |
卸売業 | 101人以上 | 1人以上100人以下 | 1億円以下 |
小売業 | 51人以上 | 1人以上50人以下 | 5,000万円以下 |
サービス業 | 101人以上 | 1人以上100人以下 | 5,000万円以下 |
製造業・その他 | 301人以上 | 1人以上300人以下 | 3億円以下 |
「健康経営優良法人」と認定されるとロゴマークの使用が可能となり、さらに優れた取り組みを行っている企業には、次のような称号が設けられています。
区分 | 2025年認定企業数 | 称号 |
大規模法人部門 | 3,400法人 | 上位法人は「ホワイト500」 |
中小規模法人部門 | 19,796法人 | 上位500法人は「ブライト500」 |
501〜1500位法人は「ネクストブライト1000」 |
健康経営優良法人制度は年々申請数が増加し、中小企業でも広く取り組みが進んでいます。
初回の認定年度である2017年度から、認定件数は318件〜16,733件と約52倍と伸びており、制度への注目度が感じられます。
背景には、労働人口の減少や若手層の健康志向の高まりにくわえ、2020年度の新型コロナによる働き方の変化があります。企業が従業員の健康を重視する姿勢は、組織風土の改善や職場の活性化につながり、結果的に生産性や採用力の向上にも結びつきます。
このような時代の流れから、健康経営への注目度は右肩上がりで高まっていると考えられます。
健康経営優良法人の認定は、一定期間の準備や手間がかかるものの、それを上回るメリットを企業にもたらします。
ここでは、認定を受けることで得られる4つのメリットを解説します。
健康経営優良法人に認定されることで、企業は「従業員の健康を大切にする会社」という前向きなブランドイメージを社外に伝えられます。
ロゴマークをホームページや広報に活用すれば、顧客や取引先からの信頼度が高まる効果も得られるでしょう。
さらに、経済産業省のホームページで社名が公表されるため、知名度の向上にもつながります。
健康経営優良法人は、顧客や取引先以外だけでなく、求職者や現従業員にも安心感を与えられます。働きやすい職場や従業員の健康づくりに配慮した企業であるとアピールできるので、採用活動の大きな強みとなるでしょう。
さらに、ワークライフバランスの改善や健康活動の推進といった取り組みを通じて「従業員を大切にする姿勢」を示せます。従業員の職場への満足度が高まり、離職率の低下や長期的な人材定着が期待できるでしょう。
金融機関や自治体からの優遇措置を受けられる点も大きなメリットです。たとえば、補助金申請時の優遇措置や、融資における優遇利率の適用などが挙げられます。
さらに、自治体独自の顕彰制度との連携があるのも特徴です。
内容は自治体によって異なりますが、法人名や取り組み内容の周知につながり、地域における知名度向上にも効果があります。
企業は健康経営優良法人の認定に向けて、従業員の健康意識を高める具体的な取り組みを行います。
たとえば、事務所や工場内の禁煙推進や、健康診断結果の「要精密検査・要医療率」を数値目標として設定する改善活動などが挙げられます。
従業員一人ひとりの健康意識が高まることで、会社全体の生産性向上にもつながるでしょう。
一方で、健康経営優良法人の認定にはメリットだけでなく、取り組みの準備や社内浸透に一定の時間や労力が必要です。
ここでは、認定に伴う3つのデメリットを見ていきましょう。
健康経営の取り組みは、短期間で効果を数値として示すのが難しい面があります。
たとえば、従業員の健康状態改善や休職の人数が減ったとしても、それが取り組みの成果だと客観的に証明するのは容易ではありません。
そのため、認定を目指す場合は、従業員の健康課題の把握や具体的な施策の検討など、長期的な視点で段階的に進める必要があります。
健康経営優良法人の認定準備には、一定の時間と費用がかかる点は押さえておきたいポイントです。
中小規模法人部門では、自社が加入する協会けんぽや健康保険組合の「健康宣言」へ参加し、社内の現状把握や取り組み計画、資料作成などを経て、認定までに1年〜1年半かかるのが一般的です。さらに、認定申請料として、次の金額が毎年必要となります。
・大規模法人部門:税込88,000円
→グループ会社との合算申請の場合、1法人あたり税込16,500円加算
・中小規模法人部門:税込16,500円
※認定申請料は2025年時点
この金額に見合った費用対効果を得られるか、検討のうえ取り組むことがポイントです。
健康経営の取り組みは、社内に浸透させるまでに時間と工夫が必要です。
従業員一人ひとりの協力や理解があって初めて効果を発揮しますが、生活習慣や価値観はさまざまで、同じ施策でも歓迎する従業員もいれば、抵抗を感じる従業員も出てきます。
たとえば禁煙対策や運動習慣の推進などでは、すぐに全員の意識や行動を変えるのは難しく、浸透には時間がかかるでしょう。
そのため、従業員の状況に応じた柔軟な対応や、継続的な周知・啓発、健康管理委員会の設置など、会社として一体となり取り組む姿勢を示すことが重要です。
こうした取り組みを根気強く続けることで、個々の従業員の健康意識が高まり、結果として会社全体の生産性や定着率向上につながります。
健康経営優良法人として認定されるためには、大きく5つの要件を満たす必要があります。
大規模法人部門 | 中小規模法人部門 | |
1.経営理念 | 健康宣言の社内外への発信など | |
2.組織体制 | 健康づくり責任者の設置、産業医・保健師の関与など | 健康づくり担当者の設置、40歳以上の従業員の健診データの提供 |
3.制度・施策実行 | 健康課題に基づいた具体的な目標の設定や健診・検診等の活用・推進、ワークライフバランスの推進や性差・年齢に配慮した職場づくりなど | |
4.評価・改善 | 健康経営の実施についての効果検証 | 健康経営の取り組みに対する評価・改善 |
5.法令遵守・リスクマネジメント | 定期健診を実施していること、50人以上の事業場においてストレスチェックを実施していることなど |
とくに「3.制度・施策実行」では細かな項目が分かれており、大規模法人部門は17項目のうち14項目以上、中小規模部門は17項目のうち8項目以上の達成が求められます。
なお、認定基準は毎年見直される可能性があるため、最新の情報は「ACTION!健康経営」の公式サイトで確認するようにしましょう。
健康経営優良法人の認定を受けるには、手順に沿って申請を進める必要があります。
ここでは、申請に向けた7つのステップと認定までのスケジュール、さらに認定に向けた計画のポイントを解説します。
健康経営優良法人の申請は、大きく7つのステップで構成されます。
申請受付は毎年8月中旬〜10月中旬に行われるため、それまでに必要な準備を逆算して進めましょう。
1.健康宣言への参加 (前年6月頃) | 自社が加入する協会けんぽや健康保険組合へ「健康宣言書」を提出 |
2.自社の現状把握 (前年7〜8月頃) | 従業員の健康課題や既存制度の現状を確認し、申請に必要な準備や改善点を明確にする |
3.取り組み計画の策定・実施 (前年9月〜当年3月頃) | 認定要件に沿った施策計画を作成・実施する ※申請には「最低6ヶ月以上の取組実績」が必要 |
4.提出資料の準備・保管 (当年4〜7月頃) | 実施した施策や制度のエビデンス資料を収集する 例)健康をテーマとした情報提供に使用した通知・メールの発信記録や文書の回覧記録など |
5. 実施状況の評価・改善 (当年5〜7月頃) | 今年度の取り組みを振り返り、成果や課題を整理し、次年度の改善点へつなげる |
6.申請書の作成 (当年7月〜8月頃) | 認定申請に必要な情報をまとめ、4の資料を添付する |
7. 申請手続き (当年8月〜10月頃) | 専用サイトにて申請書を提出する |
このように、取り組みを決意してから申請まで1年〜1年半はかかる見込みです。
申請書を提出し終えると、認定申請料の請求書が届くので、期限までに振り込みましょう。
その後、審査を経て毎年3月頃に健康経営優良法人として認定されたか発表されます。
2025年度に取り組み申請した企業は、次のようなスケジュールで認定が行われます。
健康経営優良法人の認定は、取り組みや指標が基準に満たない場合は「不認定」となることがあります。
実際に、以下のような取り組みや指標は認められていません。
エビデンスのない喫煙対策
例:「本年度は紙巻きたばこ喫煙者に電子たばこに変更させ、さらには喫煙者0へ」
→ 電子たばこを推奨することは禁煙促進の科学的根拠に乏しく、認められません。
法令遵守レベルにとどまる目標設定
例:「年に5日の有給休暇の取得」
→ 法令で義務付けられた最低基準をそのまま目標にしても、推進計画としては不十分です。
参考:ACTION!健康経営(日本経済新聞)「よくある質問 健康経営優良法人認定2026申請のポイント」
不認定となった例から分かるように、科学的根拠に基づいた施策と、法令水準を超える実効性のある目標に設定する必要があります。
公式の申請要項やガイドラインを確認し、自社の計画をブラッシュアップしましょう。
健康経営優良法人制度は、従業員の健康を守りつつ企業のブランド力や採用力を高められる大きなメリットがあります。
一方で、認定までに1年〜1年半ほどと長い準備期間を要し、エビデンス資料の収集や更新のたびに発生する認定申請料などのデメリットもあります。
簡単に取得できるものではありませんが、裏を返せば、本気で健康経営に取り組む企業の証となります。本記事で紹介したメリットとデメリットを参考に、持続的な成長に向けた第一歩を踏み出しましょう。
あかつき社会保険労務士法人は、健康経営優良法人の認定取得に向けて、労働法の観点からサポートを行っております。認定に向けた職場環境の見直しや客観的なデータの作成などは比較的難易度が高く、途中で挫折してしまう企業も少なくありません。
次のお悩みに1つでもチェックが入りましたら、お気軽にご相談ください。
認定取得に向けた労力に見合う効果が得られるか
どの評価項目を優先すればよいか悩んでいる
申請に必要な資料やエビデンスの準備に不安がある
まずはオンラインで無料ヒアリングを実施いたします。
お問い合わせフォームより、ご連絡をお待ちしております。