COLUMN
従業員が病気やメンタル不調などで長期的に働けなくなるケースは、どの企業でも起こり得ます。このような事態に備えておきたいのが「休職制度」です。
明確なルールを設けることで、従業員に安心を与えるとともに、企業側も雇用管理上のトラブルを防げます。
この記事では、休職制度について、社労士がわかりやすく解説します。
休職制度や規程の見直しを検討している人事労務担当者・経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
休職制度とは、従業員が病気やケガ・私的な事情などにより、一定期間業務に従事できなくなった際に、雇用関係を維持したまま職務から離れることを認める仕組みです。
一時的に働けない状態の場合、雇用関係を終わらせるのではなく、回復や事情の解消を待つという従業員への配慮が背景にあります。従業員にとっては生活やキャリアが守られ、企業にとっても人材確保や信頼関係維持につながる制度といえるでしょう。
なお、混同しやすい「欠勤」や「休業」とは意味が異なるため、ここではそれぞれの違いや、休職となる主な理由について解説します。
「休職」と「欠勤」「休業」の違いは、次のとおりです。
休職 | 欠勤 | 休業 | |
定義 | 雇用関係を維持したまま一定期間業務に従事しない | 労働義務がある日に労務を提供しない | 会社や法令により労働義務が免除される |
理由 | 私傷病など | 体調不良など | 育児休業など |
期間 | 長期的なことが多い | 短期的なことが多い | 会社や法令に基づく期間 |
休職は、企業が従業員に対して労働義務を免除または禁止することに対し、欠勤は労働義務がある状態で従業員が仕事を休むことを指します。
欠勤は、短期間で突発的なケースが多いのに対し、休職は長期間にわたり計画的に取得される点が特徴です。
休業は、企業側の事情や法令によって従業員に仕事を休ませる制度であり、従業員個人の事情による休職とは性質が異なります。
とくに、労働基準法第26条に基づき「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が生じます。
一方で、休職・欠勤 については原則として賃金支払義務はなく、働いていない時間の賃金は発生しない「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されます。
休職には法律上の定めがないため、各企業の就業規則等により制度が異なります。
そのため、利用できる休職の種類や条件もさまざまですが、代表的なものは次のとおりです。
私傷病休職 | 業務外の病気やケガにより就業できない場合の休職。 私生活上の入院や事故のほか、うつ病などのメンタル不調も含まれる。 |
自己都合休職 | ボランティア活動や私的な事情を理由とする休職。 |
出向休職 | 従業員が他社へ出向する際に、自社に在籍したまま休職扱いとする。 |
事故欠勤休職 | 病気やケガ以外の理由(刑事事件による拘留など)で欠勤が続いた場合の休職。 |
留学休職 | 語学・資格取得など、キャリア形成のために本人の希望で留学する場合に利用される復職前提の休職。 |
公職就任休職 | 議員などの公職に就任し、業務との両立が困難になった場合の休職。 |
起訴休職 | 刑事事件で起訴された従業員について、企業の信用や職場秩序維持のために休職を命じる。 |
組合専従休職 | 労働組合の役員が組合活動に専念するための休職。 |
なお、病気やケガでも業務中または通勤中に発生した場合は「労災」に該当するため、このような休職には該当しません。
休職の中でも「私傷病休職」は業務外の病気やケガによる休職であり、長期的に働けないケースが多いため、トラブル防止の観点からも制度設計が重要です。
ここでは、休職を認める基準と就業規則に定めておくべきルールを解説します。
労働基準法上の具体的な定めがない休職制度は、その内容や運用は各企業の就業規則に委ねられています。
したがって、休職制度を設ける場合は就業規則に明記し、従業員に周知することが義務付けられています。
休職を認める条件として、期間や対象者・診断書の提出などがポイントです。
・ 一定期間以上勤務できないと判断されること ・適用されない対象者を明記すること ・医学的判断を基礎とすること |
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構「私傷病による休職・復職に関する就業規則(例)」
このように、病気やケガで一定期間以上の労働不可状態や欠勤が続く場合は、休職を認める旨を規定します。
なお、対象者の範囲を正社員と非正規社員で分ける場合には注意が必要です。
労働政策研究・研修機構の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2022年)によると、休職制度の非正社員への適用は次のとおりです。
引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「治療と仕事の両立に関する実態調査」
とくに50人以下の中小企業では、「非正社員には適用しない」割合が高い傾向にあります。
ただし、同一労働同一賃金の原則に従うと、「福利厚生」の差別的な取扱いに当たらないよう、合理的な理由を設ける必要性があります。
また、休職の可否を判断する際には、主治医による診断書の提出を求め、必要に応じて会社と産業医の面談を実施するのが望ましいとされています。
制度の公平性や企業の安全配慮義務を果たすためにも、明確な基準を整備しておきましょう。
労働政策研究・研修機構の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2022年)によると、休職期間は多くの企業で「6ヶ月~1年程度」を上限としており、長くても3年以内とするケースが一般的です。
引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「治療と仕事の両立に関する実態調査」
健康保険の傷病手当金が最長1年6ヶ月支給されることから、その期間を一つの目安に設定するのが適切といえます。ただし、休職中も社会保険料の負担は続くため、会社・従業員双方にとって無理のない期間の設定が必要です。
さらに、想定以上に療養が必要となる場合を考慮し、就業規則には「会社が認める場合は延長可能」と明記しておくと安心でしょう。
・休職期間と延長の有無を記載する 例)最大で1年6ヶ月の休職期間(通算または連続) ただし、会社が認める場合に限り休職期間を6ヶ月延長可とする |
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構「私傷病による休職・復職に関する就業規則(例)」
▼傷病手当金についての記事はこちら
【従業員の休職対応】傷病手当金制度と申請の流れ・Q&Aを社労士が解説
休職中は「ノーワーク・ノーペイの原則」により、給与を無給とする企業が大多数を占めています。
そのため、休職中の生活保障として健康保険の傷病手当金を推奨するケースが一般的です。
賞与についても、労務提供がない場合は不支給とする企業が多いですが、査定期間に勤務実績がある場合には一部を支給する企業もみられます。
また、休職中であっても社会保険料の納付義務は免除されません。給与からの天引きができないため、取り扱い方法を明確にしておく必要があります。
就業規則には、次のような事項を明記しておきましょう。
・休職期間中の賃金 ・賞与の支給要件 ・社会保険料の負担方法 |
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構「私傷病による休職・復職に関する就業規則(例)」
そのほかにも、昇給の扱いや勤続年数・退職金算定の対象に含めるかどうかについても、定めておくことが望ましいでしょう。
休職中の従業員とは、健康回復を最優先に、定期的かつ適切な連絡を取ることが重要です。
休職に入る前に日中連絡がとれるメールアドレスや電話番号(緊急連絡先を含む)を確認しておくと、連絡が取れない状況を防ぐことが可能です。連絡の頻度や方法は、従業員の意向や健康状態に応じて柔軟に調整しましょう。
休職中の取り扱いについて、就業規則には次のような事項を記載します。
・主治医の指示に従い、健康回復に専念すること ・療養状況や休職の必要性を診断書添付で会社に報告すること ・産業医等による定期・臨時面談に応じること |
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構「私傷病による休職・復職に関する就業規則(例)」
従業員が休職に入る際には、申請受付から休職中の対応、そして復職の判断・支援と一連の流れに沿った適切な手続きが必要です。
ここでは、会社が押さえておくべき実務対応を時系列で解説します。
従業員から休職の申し出があった際には、申請から発令まで次のように順序立てて進めましょう。
1. 従業員から上司へ休職の申し出 2. 上司から人事部へ報告 3. 診断書や面談のうえ休職可否を判断 4. 休職発令と制度案内 |
診断書は病名だけでなく、就労が困難とされる期間を明記してもらうことが重要です。
とくに精神疾患の場合、長期的な見通しが立てにくいため、1〜2ヶ月ごとに更新された診断書を提出してもらうのが望ましいでしょう。
また、人事部は報告を受けた段階で、就業規則上の休職要件に該当するかをあらかじめ確認しておくと、手続きをスムーズに進められます。
休職発令や傷病手当金制度の案内を行う際には、あわせて傷病手当金の申請時期や復職面談の目安日程など一連のスケジュールをあわせて共有し、従業員が安心して療養に専念できる環境を整えましょう。
休職中の従業員には、健康回復を最優先に、定期的な状況確認と必要な手続きを行う体制が求められます。
傷病手当金の申請や社会保険料の振込手続きのフォローにくわえて、休職満了が近づいた際には復職面談の日程調整または休職延長の必要性の確認など、細やかなサポートを行いましょう。
復職の可否は、従業員本人の意向や主治医・産業医の診断、症状の回復状況、職場環境などを総合的に考慮して判断します。
とくに精神疾患や長期療養者の復職は、短時間からのリハビリ勤務や段階的な業務開始など、無理のない復帰方法を検討することが重要です。
復職が決まった際は、復帰日や業務内容、勤務時間などを含めた復職計画を作成し、従業員に共有します。一般的には休職前の部署や職務が原則ですが、その配置が難しい場合は、業務や責任の軽減など適切な措置を講じましょう。
人事担当者は、復職後も定期的に面談を行い、体調や業務負荷を確認することで、再発リスクを抑えつつスムーズな職場復帰をサポートします。
休職期間が満了した際、復職できる場合もあれば、復帰の見込みが立たず退職となるケースも想定されます。
ここでは、休職期間満了時に押さえておくべき対応と法的な留意点を解説します。
休職期間が上限に達しても復職できない場合の扱いは、就業規則で次のように「退職」または「解雇」と明記しておくことが重要です。
・休職期間満了時に復職できない場合は、満了日をもって退職とする ・休職期間満了時に復職できない場合は、満了日をもって解雇とする |
このような規定がないと、雇用契約の解除や解雇の判断を個別に行わなければならず、場合によっては不当解雇と主張される可能性があります。
また、退職について義務はありませんが、休職期間の満了日や条項・退職日が記載された「退職通知書」を発行しておくと安心です。
解雇の場合は、30日前までに「解雇予告通知書」を交付しなければ解雇予告手当の支給が必要となるため、発行しておきましょう。
休職期間満了を理由とした退職や解雇は、就業規則の定めに基づいて行うことで適法と判断されるケースが多い一方、「不当解雇」につながるリスクもあります。
業務上のケガや病気による休職中は労働基準法19条の解雇制限がかかるほか、主治医が復職可能と診断している場合や、短期間の延長で回復が見込めるケースでは、直ちに解雇するとトラブルにつながりかねません。
退職や解雇にいたる際には、社会通念上相当といえる合理的な理由があるかを確認したうえで、慎重に判断しましょう。
退職金は勤続年数を用いた計算方法が一般的です。
そのため、休職期間を勤続年数に含めるかどうかは、就業規則や退職金規程を確認のうえ算出しましょう。
また、雇用保険の離職票に記載する離職理由にも配慮が必要です。
私傷病による休職期間満了で退職となる場合は、従業員が傷病により労務提供できないため、「自己都合」による退職、解雇の場合は「会社都合」による退職と考えられます。
離職理由は次のように記入のうえ、就業規則の写しと、休職期間中に申請した傷病手当金支給申請書(療養担当者の意見書)、退職通知書または解雇予告通知書の写しを添付してハローワークへ提出しましょう。
出典:ハローワーク「記入例:雇用保険被保険者離職票-2(様式第6号)」をもとに一部加工して作成
休職制度は、従業員の療養を支えると同時に、人材を確保し従業員を守るためにも欠かせない仕組みです。
とくに、休職期間の設定や復職可能か判断するポイント、満了時に退職・解雇のどちらにするかなど、ルールづくりや運用の面で慎重な対応が求められます。
自社のルールが現状の法令や実務に適しているかどうか、今回の内容を参考に一度見直してみましょう。
あかつき社会保険労務士法人は、休職制度の設計や就業規則の見直し、制度運用に関するご相談を承っております。
企業の実情に合わせて、法令を踏まえた適切なルールづくりをサポートいたします。
次のお悩みに1つでもチェックが入りましたら、お気軽にご相談ください。
就業規則が法的に問題ないか気になる
休職期間満了時の取扱いを迷っている
休職中の給与・社会保険料の取扱いを明確にしたい
まずはオンラインで無料ヒアリングを実施いたします。
お問い合わせフォームより、ご連絡をお待ちしております。