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知らなかったがトラブルの原因に!労務担当者が気を付ける有給休暇の買取のポイントとは?

 

企業の労務担当者にとって、有給休暇の管理は重要な業務の一つです。
法律では年5日の有給休暇の取得義務が企業に求められる一方で、慢性的な人手不足や休日日数の増加のため有給休暇の消化が進まないというジレンマも生じます。

有給休暇を取ってほしいけど、有給休暇が使えずに消滅してしまう人に何とか報いてあげたい。
そんな経営者や労務担当者の声が日々届きます。

有給休暇の買取」に関する相談は多くありますが、適切に対応しないと法的リスクを伴う可能性があります。
本記事では、有給休暇の買取に関する法律の原則と、実務上の工夫について解説します。

有給休暇の買取とは?

退職時や有給休暇の時効による消滅時に、使いきれなかった有給休暇や時効により消滅する有給休暇を企業が買い取る行為のことを言います。

本来であれば、有給休暇は労働者の休息をとるための制度であり、有給休暇を買取することを定めた法律はありませんが、実務上は会社の体制や組織風土から使いきれない場合も多く、買取制度の導入を検討する企業も非常に多くあります。

そもそも、企業に「有給休暇を買い取る義務」はありません。
法律以上の会社独自の制度として定める、福利厚生の一部の制度と思えばわかりやすいでしょう。

有給休暇の買取に関する法的ルール

原則として有給休暇の買取はNG

労働基準法第39条に基づき、使用者は労働者に対し年次有給休暇を与える義務があります。
有給休暇は労働者が休息を取るための制度であり、その趣旨を損なうため、原則として買取は認められておらず、行政解釈では以下の通りです。

「年次有給休暇の買上げの予約をし, これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ,ないし請求された日数を与えないことは,法第39条の違反である」

(昭和30年11月30日 基収第4718号)

本来は“休息”を取るための“休暇”制度であり、買取を認めると過労や健康問題を引き起こすがあるため法律では認められておりません。
仮に本人が望んだとしても、買取することはできません。

例外的に有給休暇の買取が可能なケース

原則は有給休暇の買取は認められていませんが、以下のケースでは、有給休暇の買取が認められています。

法律を上回る有給休暇:法定の有給休暇(10日~20日)を超えて企業が独自に付与した有給休暇については買取可能です。具体的には、入社6か月で法律上付与される10日の付与に加えて、企業独自に2日の上乗せ付与をしているようなケース。

退職時の未消化分の有給休暇:退職に伴い取得できなかった有給休暇は、使用者と労働者の合意のもとで買い取ることができます。具体的には、退職日時点で残り10日有給休暇が未消化のまま退職するようなケース。

時効によって消滅する有給休暇:労働基準法第115条に基づき、有給休暇の取得期限は2年です。取得されなかった有給休暇が時効で消滅した後に、会社の裁量で買い取ることができます。具体的には、付与日から2年経過し法的な時効を迎えた日数の有給休暇を上限に買取の対象とするケース。

有給休暇の買取方法

有給休暇の買取は、以下の方法で賃金を支給する方法が考えられます。

買取方法メリットデメリット
給与と合算して支給毎月の給与計算時に買取した有給休暇分を加算して支給する方法
支給のタイミングが多く管理が簡単社会保険の取り扱い上、賞与として指摘され社会保険料の未払リスクが生じる可能性がある
賞与として支給通常の賞与計算時に買取した有給休暇分を加算して支給する方法通常の賞与と合算することで、税務処理や社会保険の取り扱いを特別気にする必要がなく処理が簡単賞与支払届が支給日から5日以内に届出が必要
退職金に上乗せ退職時の退職金に買取した有給休暇分を加算して支給する方法退職所得として支給するため、給与所得に比べ税務面で優遇されている。また、社会保険料の負担も発生しない支給時は通常1回に限られるため、原則は退職時の未消化分の有給休暇の買取に限定される

有給休暇の賃金支払に関するルール設計

買取金額の設定

有給休暇の買取金額は、法的な制限はありません。
企業の裁量で決めることが可能であり、1円でも1万円でも自由に設定できます。ただし、通常の賃金や平均賃金と大きく異なる額を設定すると、労働者の不満につながる可能性があるため注意が必要です。

通常の有給休暇取得時の賃金

通常の有給休暇取得時には、以下のいずれかの方法で計算されます。
買取金額の設定をする際には、原則を確認しておきましょう。

通常の賃金:基本給や手当を基に通常の労働日の1日の賃金として受け取る賃金額を計算する方法

平均賃金:過去3か月間の賃金総額をその期間の総日数で除して1日の平均賃金額を計算する方法

標準報酬月額:社会保険の報酬額を30で除して1日の賃金額を計算する方法(実務上はあまり使われない)

実務上のポイントまとめ

買取の予約は法律で禁止されている

有給休暇の買い取り予約は法律で明確に禁止されています。
買取制度を設けるとしても、事前に買い取ることを予定するような制度にはしないように気を付けましょう。

あくまで有給休暇の取得は労働者の自由裁量に委ねられるものである必要があります。
買取に誘導するようなことはNGとなります。

就業規則や社内ルールの整備

有給休暇の買取を実施する場合は、就業規則や社内規程に明文化することが重要です。
特に、以下の点を明確にしておくとトラブルを防げます。

買取が可能なケースの明記

買取額の計算方法

買取の申請・承認フロー

従業員への周知と説明

有給買取のルールが不明瞭だと、労働者とのトラブルにつながる可能性があります。
定期的な労務研修や、社内FAQの整備を行うことで、スムーズな運用が可能になります。

社会保険・税務への影響を考慮

有給休暇の買取金額は、原則として給与所得として課税対象となり、社会保険料の計算にも影響を与えます。
社会保険料の未払いや税金の未納とならないように注意しましょう。

労務管理の専門家に相談するメリット

有給休暇の買取は、法律や労務管理の知識が求められるため、専門家に相談することが推奨されます。
社会保険労務士に依頼することで、以下のメリットがあります。

法的リスクの回避(労働基準法違反を未然に防ぐ)

適切な運用ルールの策定(就業規則の整備)

税務・社会保険の最適化(給与計算・社会保険への影響を考慮)

お客様に合った制度導入やシステム導入を支援します

あかつき社会保険労務士法人では、お客様の業種や企業規模・ご希望に沿った制度導入やシステム選定を支援しています。

「有給休暇の未消化分を従業員さんに還元したい」「有給休暇の取得で不公平を生じさせたくない」といったお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

有給休暇の買取は、原則として認められていませんが一定の条件下では制度を設けることが可能です。適切なルールを整備し、労働者とのトラブルを防ぎましょう。
「有給休暇を買取しなければならない現状」を変えることも一つの方法です。
有給休暇を取得しやすい環境づくりを法的なルール整備や他社の事例を参考に一緒に考えられる社労士にご相談ください。

まずはオンラインでヒアリングを実施します。お問い合わせフォームより、ご連絡をお待ちしております。

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