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【記入例あり】社会保険の算定基礎届とは?提出の流れや書類の書き方・電子申請の方法を社労士が解説

従業員を雇用している事業所は、毎年7月に「算定基礎届」を提出し、社会保険料の基礎となる標準報酬月額を決定する必要があります。これは、4月〜6月に支払った報酬額をもとに、健康保険・厚生年金保険の保険料を見直す重要な手続きです。

この記事では、次の点を社労士がわかりやすく解説します。

社会保険の算定基礎届とは

算定基礎届提出の流れ

ステップを踏まえた記入例

電子申請を利用するには

「算定基礎届をはじめて作成する」「書き方を正しく理解したい」とお考えの実務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

社会保険の算定基礎届とは

次年度の社会保険料を決める「算定基礎届」は、毎年7月に提出する重要な書類です。

ここでは、算定基礎届の役割や、保険料の計算に使われる「標準報酬月額」、そして混同されやすい「月額変更届」との違いについて解説します。

社会保険料を見直す重要な手続き

算定基礎届は、従業員の健康保険料や厚生年金保険料を見直すために、毎年提出が義務づけられている書類です。
この手続きは「定時決定」と呼ばれ、4月・5月・6月の報酬額をもとに、標準報酬月額を再計算し、原則として9月分から保険料が変更されます。

提出義務があるのは、「社会保険の適用事業所」です。
法人は、役員や正社員・契約社員・パートなど、社会保険に加入しているすべての従業員が対象となるため、該当します。
個人事業主であっても、常時5人以上の従業員を雇用している場合、業種によっては適用事業所となるため、算定基礎届の提出が義務づけられています。

計算の基となる標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を算出する際の基礎となる金額です。
毎月の給与額に応じて保険料を細かく変更するのではなく、一定の基準額(=標準報酬月額)を用いて年間を通じて保険料を算定する仕組みとなっています。

この金額は、毎年4月・5月・6月の3か月間に「実際に支払った報酬」の平均額をもとに決定されます。
給与や手当などの総額を平均し、「保険料額表」に定められた等級に当てはめることで、9月から翌年8月までの標準報酬月額が確定し、それに基づいて社会保険料が決まります。

出典:全国健康保険協会「令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」をもとに一部加工して作成

月額変更届との違い

算定基礎届と混同しやすい手続きとして「月額変更届(随時改定)」があります。どちらも標準報酬月額を見直すための手続きですが、提出時期や提出の要件が異なります。

算定基礎届は毎年決まった時期に、全被保険者の報酬実績をもとに保険料を見直す「定時」の手続きです。
一方、月額変更届は、昇給・降給などで固定的な賃金に変動が生じた場合に、必要な要件を満たせば「随時」を変更する届出です。

算定基礎届と月額変更届の主な違いは、次のとおりです。

 

算定基礎届(定時決定)

月額変更届(随時改定)

提出時期毎年7月10日まで固定賃金に変動があった月から4ヶ月目
対象期間

4月・5月・6月に
支払った給与

賃金変動後に
支払った3ヶ月間の給与

対象者(原則)

社会保険に加入する
すべての従業員(=被保険者)

固定的賃金に変動がある
すべての従業員(=被保険者)

保険料変更月9月分の保険料から適用

変動月から4ヶ月目の
保険料から適用

提出要件特になし

標準報酬月額が2等級以上変動した(上下問わず)

3ヶ月連続で支払基礎日数が17日以上

提出目的

毎年定期的に
標準報酬月額を見直すため

昇給・降給など賃金実態に
合わせて保険料を見直すため

なお、4月に昇給や降給が決定した場合、基本給などの固定的賃金に大きな変動がある従業員については、「算定基礎届」ではなく「月額変更届」を提出する必要があります。

この場合、標準報酬月額の変更は通常の9月分(10月納付分)からではなく、変動月から起算して4か月目、つまり7月分(8月納付分)から適用されるため、保険料の反映時期に注意が必要です。

算定基礎届の流れ

算定基礎届は、次の流れで提出・反映します。

① 6月中旬以降に届出用紙が届く

社会保険の算定基礎届に必要な書類は、例年6月中旬以降を目安に、日本年金機構から各事業所宛てに郵送されます。

届出用紙として「被保険者報酬月額算定基礎届」が入っており、事業所名や所在地、被保険者の氏名などの情報があらかじめ印字された状態で届きます。

提出用の返信用封筒も同封されているため、記入後の算定基礎届を入れて郵送するのが一連の流れです。

② 対象者の確認と報酬の集計

算定基礎届が届いたら、まず提出対象となる従業員の確認と、4月〜6月に支払った報酬の集計を行います。

算定基礎届の対象者は、7月1日時点で会社に在籍している社会保険加入者です。4月入社の新入社員や5月までの中途入社者、傷病や育児で休業している従業員も対象です。

ただし、次に当てはまる従業員は、原則として算定基礎届の提出対象外となります。

6月1日以降に入社し、社会保険の資格を取得した人

6月30日以前に退職し、社会保険の資格を喪失した人

7月改定の月額変更を提出する人

8月・9月の随時改定を予定し、申し出を行った人

これらに該当する人は、本来記入する項目を空欄にし、備考にある項目に丸印をつけて理由を明記します。

出典:日本年金機構「被保険者報酬月額算定基礎届」をもとに一部加工して作成

報酬額は、4月・5月・6月に実際に支払った給与や手当などを基に集計します。ただし、臨時の手当や年3回以下の賞与などは含めません。

主に報酬額として計算に含める賃金は、次のとおりです。

固定的賃金(月ごとに変動しない給与)非固定的賃金(月ごとに変動する給与)
基本給、役職手当、通勤手当、住宅手当、扶養手当、家族手当、別居手当、年4回以上の賞与など

残業手当、休日出勤手当、能率手当、皆勤手当、食事手当など

なお、現物で支給される通勤定期券や食券なども報酬として含まれます。

③ 算定基礎届の作成・提出

対象者の確認と報酬の集計が終わったら、実際に算定基礎届へ記入を開始します。

出典:日本年金機構「被保険者報酬月額算定基礎届」をもとに一部加工して作成

1.支払基礎日数

まずは、4月・5月・6月の各月ごとに、⑩支払基礎日数を記入します。
支払基礎日数とは、給与計算の対象となる実働日数です。締日や支払日により異なりますが、月給制の場合は原則として暦日数になります。

日本年金機構:算定基礎届の記入・提出ガイドブック

なお、時給制や日給制の場合は、有給休暇も含む実際の出勤日数を記入します。

2.報酬月額

続いて、報酬月額を記入します。

⑪通貨:現金で支給された給与や手当(基本給、通勤手当、残業代など)
⑫現物:現物で支給された通勤定期券や食券など(ない場合は空欄)
⑬合計:⑪通貨と⑫現物の合計

注意点:通勤手当として「定期代」や「ガソリン代」を支給している場合は、⑪通貨欄に、会社が「通勤定期券」を購入して渡している場合は、⑫現物欄に記入します。

3.総計と平均額

「⑭総計」欄には、支払基礎日数が17日以上ある月(=算定対象月)の通貨・現物支給額の合計を記入します。
たとえば、月給者が5月中に15日間欠勤し、支払基礎日数が「16日」となった場合は、その月の「⑬合計」は「⑭総計」に含めません。

出典:日本年金機構「被保険者報酬月額算定基礎届」をもとに一部加工して作成

⑮平均額は小数点以下を切り捨てで算出し、この金額が標準報酬月額の基準になります。

なお、正社員よりも勤務時間が短い「短時間就労者」や、短時間就労者のなかでもさらに勤務時間が短い「短時間労働者」は、支払基礎日数が17日未満でも総計に含めるケースがあります。

短時間就労者

短時間労働者

日本年金機構:算定基礎届の記入・提出ガイドブック

4.提出先と提出方法

算定基礎届は、毎年7月1日から7月10日までに提出します。
健康保険と厚生年金の両方に反映される社会保険の届出のため、それぞれの保険制度ごとに次の提出先があります。

提出先

厚生年金保険分
→ 管轄の年金事務所 または 日本年金機構の事務センター

健康保険分
→ 全国健康保険協会(協会けんぽ) または 企業が加入している健康保険組合

全国健康保険協会に加入している場合は、年金事務所にて手続きを行うため、別途提出は不要です。一方で健康保険組合に加入している企業は、厚生年金とは別に提出が必要なので、各組合の案内を確認しましょう。

提出方法はいずれかで行います。

郵送(前述のとおり、算定基礎届に同封されている返信用封筒にて提出)

年金事務所への持参

電子媒体(CD・DVDなど)での提出

オンラインによる電子申請(e-Govなど)

また、4月の昇給などにより、7月に月額変更届の提出が必要な従業員がいる場合は、算定基礎届とあわせて提出しておくと、手続きがスムーズに進みます。

④ 対象月より標準報酬月額を反映

提出した算定基礎届をもとに標準報酬月額が決定されると、「標準報酬決定通知書」が事業所宛に届きます。

この標準報酬月額は、原則として9月分の保険料(10月納付分)から翌年8月分までの保険料に適用されます。たとえば、10月給与で9月分保険料を控除している企業では、その10月給与から新しい保険料額へ反映が必要です。

なお、4月の昇給などで7月に月額変更届を提出した場合は、7月分(8月納付分)から反映されるため、算定基礎届よりも早く保険料を変更します。
該当者がいる場合は、反映時期を間違えないよう注意しましょう。

算定基礎届は電子申請にも対応可

社会保険の算定基礎届は、紙での提出だけでなく、インターネットによる電子申請にも対応しています。

ここでは、電子申請のメリットや必要な準備について解説します。

電子申請のメリット

算定基礎届を電子申請できる「e-Gov」は、申請業務の効率化や人的ミスの削減を目的に、活用する企業が増えています。

電子申請を利用すると、次のようなメリットがあります。

24時間いつでも申請できる

窓口への移動や郵送の手間がかからない

過去の情報を引き継ぐことで転記ミスを減らせる

申請の進捗管理ができる

常に最新の様式で申請できる

また、資本金1億円以上など一定の条件を満たす法人では、電子申請が義務化されています。
対象外の事業者であっても、業務効率化やコスト削減の観点から、電子申請の活用を検討する価値は十分にあるでしょう。

電子申請に必要なもの

電子申請を利用するには、次の4つを準備する必要があります。

パソコン

e-Govアカウントの作成

e-Govアプリケーションのインストール

電子証明書の取得

電子申請はパソコンから行うため、まずはパソコンを準備しましょう。
次にe-Gov(電子申請の窓口)アカウントを作成し、パソコンやブラウザ設定を行ったのち、アプリケーションをインストールします。

実際に電子申請を行うには、「電子証明書」の取得が必須です。
電子証明書はe-Govホームページに掲載されている「認証局」へ依頼し、発行手続きを行います。

e-Gov

認証局のご案内

または1つのID・パスワードで法人向け行政サービスを利用できる「GビズID」のうち、「gBizIDプライム」と「gBizIDメンバー」を取得することで、電子証明書なしで電子申請を行うことが可能です。

デジタル庁

GビズID

いずれかの方法で申請できる準備を整えましょう。

労務管理システムの導入でスムーズな申請へ

社会保険の算定基礎届は、労務管理システムを活用することで集計作業や提出手続きの効率化が図れます。同時期に提出が必要となることの多い月額変更届の作成にも対応しているため、手作業によるミスを防ぎやすくなるのもメリットです。

とくに、e-Govと連携可能なシステムであれば、日常的に使用している環境からそのまま電子申請を行えるので、作業時間の大幅な短縮につながります。
労務管理システムの導入を検討する場合、算定基礎届への対応状況や電子申請機能の有無を確認しておきましょう。

紙や表計算ソフトなどで管理している企業であれば、給与計算から社会保険手続きまでのデジタル化を進める機会になります。算定基礎届に限らず、日々の労務手続きを一元管理できる体制を整えることで、業務全体の効率化と負担軽減につながるでしょう。

まとめ

算定基礎届は、次年度の社会保険料を決定するための重要な書類であり、年に一度「定時決定」として提出します。
届出で決定される標準報酬月額は、給与から天引きされる保険料額の基礎となるだけでなく、傷病手当金や出産手当金、将来受け取る年金額に影響がある大切な基準です。

提出期間は7月1日から7月10日までと短く、4月〜6月の報酬を集計し、記入漏れや誤りのないよう正確性が求められます。6月分の給与が確定すれば集計作業に入れるため、届出書類が届き次第スムーズに記入できるよう、早めの準備を心がけましょう。

また、算定基礎届とあわせて「月額変更届(随時改定)」を提出するケースも多く見られます。4月の昇給などで7月に月額変更届を提出する従業員がいないか、あわせて確認しておきましょう。

算定基礎届の作成には、正確な報酬データと丁寧な確認作業が求められます。業務の負担軽減のため、電子申請(e-Gov)や労務管理システム・給与計算システムの導入を迷われている方は、導入実績のある社労士へ相談することをご検討ください。
期限内にスムーズに提出できるように、計画的に進めていきましょう。

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