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最低賃金違反を防ぐ!給与計算の注意点と委託先の選び方を解説

地域別最低賃金(以下「最低賃金」という。)を下回る賃金の支払いは、法令違反として重大なリスクを伴います。実際、2025年8月に和歌山労働局では、企業が最低賃金以上の賃金を所定日までに支払わなかったとして、最低賃金法違反の疑いで書類送検される事例が報道されました。こうした事態によって、企業は罰金のほか、社会的信用を失うリスクがあります。

そこで本記事では、最低賃金で見落としがちなポイントの具体例と、給与計算の委託先の選び方をわかりやすく解説します。

最低賃金を守る3つのポイント

最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。支払いが行われない場合は、最低賃金法40条により50万円以下の罰金となります。こうした問題を未然に防ぐためにも、次の3つのポイントを確実に押さえておくことが大切です。

①給与形態ごとの計算方法

時給制・日給制・月給制・出来高払制などのように給与形態が異なる場合、最低賃金の適用基準を誤ってしまう可能性があります。最低賃金は労働1時間あたりに対する賃金であることから、月給制などの場合でも、時給に換算して確認しておく必要があります。意図せず最低賃金を下回ってしまわないためにも、次の式を確認しておきましょう。

日給制の時給換算額=日給÷1日の所定労働時間

月給制の時給換算額=月給÷1か月平均所定労働時間

出来高払制や請負制の時給換算額=賃金総額÷総労働時間

※ 1か月平均所定労働時間=年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月

また、時給換算を行う際は小数点以下を切り捨てる必要があります。この端数処理を行わない場合、最低賃金を下回るおそれがあります。

ケーススタディ①

月給(基本給)            200,000円
年間所定労働日数            255日
1日の所定労働時間          8時間
大阪府の最低賃金(2025年)     1,177円

大阪府のAさんは、上記の労働条件で勤務しています。
この場合、月給制の時給換算額は次のようになります。

200,000円÷(255日×8時間÷12か月)≒1,176.47円

:小数点以下を切り捨て → 1,176円
:小数点以下を切り上げ → 1,177円

このように、小数点以下を切り上げた場合は最低賃金をクリアしているように見えますが、正しくは小数点以下を切り捨てる必要があるため、大阪府のAさんは最低賃金未満の賃金となります。

就業規則によって、割増賃金や欠勤控除の計算式が四捨五入を正とされている場合であっても、時給換算額の計算で四捨五入したり、小数点以下を切り上げたりしないように注意しましょう。

また、ここで大阪府のAさんが最低賃金以上の賃金となるには、月給(基本給)を200,090円以上にする(もしくは、住宅手当や役職手当などの追加、労働日数や労働時間の短縮をする)必要があります。

1,177円×255日×8時間÷12か月=200,090円

②対象外賃金の確認

最低賃金以上の賃金を支払っているつもりでも、最低賃金の対象外賃金によって、意図せず最低賃金を下回るおそれがあります。

最低賃金の対象外賃金一覧
・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
・1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
・所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
・午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
・精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

例えば、固定残業代を含んだ給与体系では、基本給だけで最低賃金をクリアしていないと違反となってしまうケースがあります。また、賞与や通勤手当、家族手当などは最低賃金の計算には含めてはいけません。さらに、夜勤などで時間帯によって割増賃金が加算される場合でも、その割増分を含めずに最低賃金を満たしているかを確認しなければなりません。

ケーススタディ②

基本給                 180,000円
家族手当                10,000円
通勤手当                10,000円
固定割増手当              50,000円
総支給額                250,000円
年間所定労働日数            240日
1日の所定労働時間          8時間
東京都の最低賃金(2025年)     1,226円

東京都のBさんは、上記の労働条件で勤務しています。
この場合、最低賃金を確認する式は次のようになります。

:180,000円÷(240日×8時間÷12か月)=1,125円
:250,000円÷(240日×8時間÷12か月)=1,562.5円→1,562円

このように、一見総支給額では最低賃金以上の賃金があるように見えても、対象外賃金を加味した正しい計算方法では、東京都のBさんは最低賃金未満の賃金となります。

また、ここで東京都のBさんが最低賃金以上の賃金となるには、基本給を196,160円以上にする(もしくは、住宅手当や役職手当などの追加、労働日数や労働時間の短縮をする)必要があります。

1,226円×240日×8時間÷12か月=196,160円

③地域差の確認

最低賃金は都道府県ごとに金額が異なります。例えば2024年度の東京都(1,163円)と秋田県(951円)では200円以上の地域差がありました。もちろん、地方でも最低賃金の引上げの動きは見られますが、全国一律にはならず、今後も地域差は解消されない見通しになっています。

この地域差によって、基準とすべき最低賃金を誤ってしまう可能性があるのは、テレワークを実施している企業や、複数の都道府県に支店や営業所を持っている企業などが挙げられます。いずれの場合も、最低賃金は労働者の属する事業場がある都道府県ごとに適用されると覚えておきましょう。

また、派遣や出張、海外勤務の場合も注意が必要です。

派遣の場合、派遣元ではなく派遣先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用されます。そのため、派遣元が地方であっても、派遣先が東京都であれば東京都の最低賃金が適用されます。

一方、短期間の出張の場合、出張先ではなく元々の勤務先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用され、長期間の出張の場合、出張先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用される可能性があります。

さらに、海外勤務の場合、日本か海外どちらの企業から給与が支払われる契約になっているかを確認し、その支払元の企業の属する国の法律が適用されるのが一般的です。

ケーススタディ③

月給(基本給)               205,000円
年間所定労働日数            255日
1日の所定労働時間          8時間
所属先                 大阪府
テレワークを行う場所          東京都
大阪府の最低賃金(2025年)     1,177円
東京都の最低賃金(2025年)     1,226円

上記の労働条件で勤務しているCさんの場合、最低賃金を確認する式は次のようになります。

205,000円÷(255日×8時間÷12か月)≒1,205.88円→1,205円

:1,177円 < 1,205円
:1,226円 > 1,205円

このように、大阪府の事業場に所属するCさんが、東京都でテレワークを行う場合、大阪府の最低賃金を基準として考えるのが適切です。そのため、Cさんは最低賃金以上の賃金となります。

給与計算の委託先の選び方

給与計算を自社のみで行う場合、前述した3つのポイントを含めた最低賃金に関するリスクを回避し、正確な給与計算を行う必要があります。さらに、属人化や社内リソース不足、専門知識不足といった不安を解消するためにも、多くの企業では、給与計算業務を外部の専門家や業者に委託するケースが増えています。

企業にとって最適な給与計算の委託先は、企業ごとの体制や目的によって異なります。そこでここからは、「税理士」「社労士」「アウトソーシング会社」それぞれの委託先の特徴を比較しながら解説します。

委託先

メリット

デメリット

委託時期と会社規模

税理士

・給与計算と年末調整の一元管理ができる

・社労士との新規契約よりコストを抑えられる可能性がある

・労務の専門家ではない

・会社設立間もない時

・10人未満

社労士

・最低賃金違反や未払賃金を防げる

・正しい社会保険料の算出ができる

・税務の専門家ではない

・従業員数の増加時

・10〜300人

アウトソーシング会社
(社労士・税理士法人を除く)

・人数が増えれば増えるほど社労士や税理士よりコストを抑えられる

・労務や税務の専門家ではない

・300人超

税理士への委託

税理士に給与計算を委託する最大のメリットは、給与計算と年末調整をまとめて管理できることです。また、会社設立直後などで従業員数が10人未満の企業では、既存の顧問税理士に給与計算も併せて委託することで、業務負担や追加コストを抑えることができます。

一方で、税理士は労働法や社会保険の専門家ではないため、最低賃金の適用や社会保険料の正確な算出といった、法令遵守に関する対応が不十分となるリスクがあります。最低賃金違反や未払賃金を防ぐという観点では、税務ではなく、労務の専門家への委託が適しています。

そのため、給与計算を税理士へ委託することは、最低賃金関連のリスクよりも、税務業務との連携効率を重視したい場合に適した選択肢と言えるでしょう。

社労士への委託

社労士は、社会保険の手続きや労務相談だけでなく、労働法を遵守した給与計算を行うことができます。例えば、時間外労働や深夜労働、休日労働などの時間集計において、労働時間制と照らし合わせて適切に処理されているかを確認し、最低賃金違反や未払賃金のリスクを未然に防ぐことができます。また、算定基礎届や随時改定といった社会保険料の調整業務も担えるため、法令遵守を前提とした給与計算の精度が向上します。

ただし、社労士は税務の専門家ではないため、年末調整などの処理において税理士業務の部分はできません。そのため、年末調整は税理士に委託するといったように複数の外部パートナーと連携する体制を事前に検討しておくことが大切です。

加えて、従業員10人以上、もしくは一人労務で対応できなくなったときは、就業規則の作成や労務管理体制の強化が必要なタイミングです。この時、給与計算と労務リスク管理の正確性を両立させるためにも、社労士への委託が適した選択となります。

アウトソーシング会社への委託

アウトソーシング会社は、大規模な給与計算に対応できるシステムと体制を整えているため、委託する企業の従業員数が多ければ多いほど、高いコストパフォーマンスを発揮しやすいです。また、給与計算業務に特化しているため、処理スピードや対応の柔軟性が優れているでしょう。

一方で、アウトソーシング会社は社労士や税理士のような労務・税務の専門家がいない運用ケースも考えられるため、労働法や社会保険、税金などに関するイレギュラーな対応は別途専門家に依頼する必要があります。特に、最低賃金違反や未払賃金、社会保険料の正確な算出など、法令リスクに関わる部分については注意が必要です。

まとめ

最低賃金法に違反すると企業は罰金だけでなく、社会的信用を大きく損なうリスクがあります。違反を防ぐためには、給与形態ごとの正しい時給換算、対象外賃金の扱いの確認、地域ごとの最低賃金の適用といった基本的なポイントを確実に押さえておく必要があります。

また、自社のみで対応する場合は属人化や知識不足によるミスが起こりやすく、法令遵守を徹底するには限界があります。そのため、税理士・社労士・アウトソーシング会社といった外部委託を活用し、自社の体制や従業員規模に応じた適切な委託先を選定することが重要です。正確な給与計算体制を構築することで、最低賃金違反のリスクを抑え、安定した経営基盤を守ることができます。

社労士への委託を検討されている場合は、ぜひご相談ください

あかつき社会保険労務士法人では、給与計算の委託の有無に関わらず、スマート労務®の顧問契約によって最低賃金や未払い賃金のチェックも実施しております。次のようなお悩みがありましたら、ぜひご相談ください。

「給与計算を社労士に委託したいが、どの事務所にすべきか迷っている」
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まずはオンラインでのヒアリングを実施しております。お気軽にお問い合わせください。

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